はせじです!
前回の記事からだいぶ時間が空いてしまいました。相変わらず時計の世界に惹かれていて、日々時計のことばかり考えて過ごしています。笑
最近は時計業界の人と間違えられることもありますが、私は時計とは全く関係ない普通のサラリーマンです。ひとりの愛好家として、時計を楽しんでます。
ちなみに、最近買った時計はジャガールクルトのビッグレベルソ(cal.822)。こちらについてはまた時間があれば書きます。
前置きが長くなりましたが、今回書く内容はこちら。
【Kikuchi Nakagawa Murakumo】
今回ご縁があって実機を拝見する機会をいただいたので、写真とともに感想を書いていきますね。
※写真の質や感想は個人の愛好家の域を超えないので、あくまで参考程度に受け止めてください。正式な情報はこれからメディアで取り上げられると思います。
時計レビューといっても私はそこまで知識もないので、時計の背後にある作り手の思いやストーリーにスポットを当てて紹介出来たらと思います。
KIKUCHI NAKAGAWAというブランドですが、私が心酔して1年半前に購入したLundis Bleusに引き続き、また設立したばかりの新興ブランドになります。
【2人の日本人時計師】
セイコーや
シチズンという時計メーカーと違って、KIKUCHI NAKAGAWAは菊池氏と中川氏という2人の時計師によって立
ち上げられたブランドです。まずおふたりのプロフィールです。
菊池 悠介
東京大学建築学科卒業後、国内ソフトウェアベンダーに就職。2年弱で退職し時計を学ぶためパリへ留学。パリ時計学校卒業後、Antoine De Macedo Horlogerで時計修理の修行。帰国後はオリジナルの機械式時計を製作するため、Chronomètreを創業しオリジナルウォッチの制作をする傍ら、クロノス日本版にコンスタントフォース機構に関する記事を寄稿。時計理論サロン会員。ChronomètreはKIKUCHI NAKAGAWA創業に伴い発展的に解消。
中川 友就
刀匠での修行の後に時計師へ転向。時計専門学校卒業後、フランスでの修行を経てシチズン時計株式会社に就職。腕時計の設計、製造、調整など大規模製造業務に一通り従事。その後、東京時計精密株式会社へ転職し、独立時計師の小規模な製造現場に携わる。のちに退社、KIKUCHI NAKAGAWAを立ち上げ現在に至る。
※HPより抜粋
お二方の経歴についても色々と書きたいことはあるのですが、ひとつだけ。中川さんは時計の世界に入る前、日本刀の世界で修行した経験があるのですね。この要素は個人的にこのブランドにおいてポイントになると思っています。
(時計界隈では説明不要のおふたりですかね)
【理念】
次に理念です。おふたりがどんな思いでブランドを設立し、今回のMurakumoを作るに至ったのか。
イマジナリー・ウォッチメイキング
私達は相反する二つの理念を持っています。
- 金属の持つ抽象性を引き出し、道具の域を超えた金属芸術を追求する。
- 機械式腕時計黄金期である30年代-50年代の延長として道具としての正統な時計を作る。
この強烈な矛盾の共存こそが私達の創作の原点であり、この作品に非現実感という唯一無二の価値を与えるものに他なりません。
※HPより抜粋
いやー深い。この理念はなかなか強烈で、何よりも実機を見るとこの理念がじわじわと感じられるんです。ここら辺を感じ取る時間が私にとっては最も至福な時間です。
【実機写真つき感想】
時計の楽しみ方は様々です。私なりの楽しみ方で写真にコメントをつけていきますので、気になる方は読んでいただけると幸いです。時計好きな方には共感していただけるかなあと期待してます。
KIKUCHI NAKAGAWAとして最初のモデルMurakumo
〈全体〉
このモデルについて、最初に取り上げた世界の大手時計メディアSJXはこう評しています。
Calatrava-style and Vaucher-powered.
カラトラバスタイル。
ぱっと見の印象ではそういえるかもしれないですね。ラグの幅、ブレゲ数字にスペードの時針など、96に存在するスタイルです。(5時7時が・の文字盤はないはず?)もちろんカラトラバといえば時計好きなら知らない人はいない、機械式時計黄金期である30-50年代を象徴する完成されたモデルですよね。
そのスタイルに敬意を評した上で、KIKUCHI NAKAGAWAが現代の技術で作るとどうなるか。そんな視点でこの時計の詳細を見ていくと、先ほど記載した理念がじわじわと感じられるのです。
〈針〉
さて、まず見ていくのは針。
写真で伝えられないのがもどかしいですが、とても立体的な作り込みになっています。この美しさは他のメーカーでは見たことないです。
例えば、
ウルバンヤーゲンセンやロジャースミスも立体的な作り方で大変美しいですが、残念ながらそれらを見たことがないので対比出来ないのがもどかしい。グロスマンの針は大変美しいですが、それともまったく違う。
針についてふたつほど。
まずは、針製作のパートナーである由紀精密株式会社
個人的にはこういう世界に誇る技術を持った会社が大好きです。zozoの前澤氏がイーロンマスクとともにdear moon projectを立ち上げて最近話題の宇宙開発事業ですが、日本で同じく宇宙開発をしているスペースアクスルのほぼ全てを製作しているのが、この由紀精密です。
日本の
独立時計師である浅岡氏とも共同で製作したことで界隈では
知らない人はいない気がします。個人的には前澤氏はパテックではなくKIKUCHI NAKAGAWAをつけて宇宙に行くような日が来て欲しいなあと密かに期待しています。
もう一点が、日本刀との関係性
たたら製鉄に始まる日本の伝統技術。
理念にもある金属芸術の域です。今回のモデル名Murakumoは、日本の名刀である天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)から来ているようです。
ある刀匠は名刀のことを次のように表現したといいます。
「それを見ただけで争いの愚かさを悟らせ、お互いに刀をおさめようという気持ちにさせるもの」
Murakumoの長針にはそれを感じます。この流線型が「刃紋」を想起させて、それがまた美しさの先に奥深さを纏いますね。SJXの指摘するカラトラバの96スタイルの中に、この長針が不気味に日本の息吹を吹き込んで調和している様は、たまらない人にはたまらないんじゃないんでしょうか。
〈ブラックポリッシュ〉
裏蓋とサイドからの写真。
これは本当に驚きました。。。
リューズに至るまでケースが完全にブラックポリッシュ。表現が難しいですが、あまりに黒くてスマートウォッチの液晶がついてるのかと思いましたよ。
時計の世界でブラックポリッシュというと、ムーブメントのネジなどに仕上げとしてすると聞いたことがあります。それをケース全面です。人によっては、機械式時計なんどから、シースルーバックで機械を見たいよ!!という人もいると思います。ちなみにこの時計のムーブメントはボーシェです!
しかし、この時計はソリッドバックにブラックポリッシュです。そして、裏蓋の内側には、、
いやー、まじすか?裏蓋あけないと見れませんよ??笑 ブラックポリッシュの5点留めの裏蓋を自分で開ける猛者は皆無ですよ?笑笑
ということで、中にこんな機械やペルラージュが入っていると想像することでニヤニヤできる変態(自分含む)にはたまらないのです。変態仕様ですが、多分この時計に興味を示すような方には十分理解いただけるものだと思います。
ちなみに、このブラックポリッシュの仕上げは手作業によるもの。塗装でも機械でもなく。ダイヤモンドペースト1μと0.5μで根気強く磨いてます。少しでも時計をいじったことがある方ならこの狂気をすぐに想像できると思います。これは現代スイスにはないんじゃないんですかね。日本刀と同じく美しさと恐怖を高い次元で両立させた日本の世界に誇る技術です。
そして、このブラックポリッシュは、ケース全面なのでベゼルやラグにもかけられています。
これって今までにない美しさなんじゃないかなって思います。自然光の下で遠くから見たとき、ブラックダイヤルとブラックポリッシュベゼル&ラグは光を吸収します。そして、風防の盛り上がった縁の所だけ白く丸く浮かび上がるような感じになります。これはもしも実機を見る機会があるか、今後メディアで取り上げられる際はそんなショットもあったら嬉しいなあ。
これは、まさに唯一無二の金属芸術です。
〈総評〉
さてさて、色々と書き足りませんがこのくらいで締めに入ろうと思います。
実機を見せていただいた時に、愛好家数人で談義をしながら撮った写真です。
左は
IWCのcal.60です。
個人的に当時の時計として最も好きなモデルのひとつです。愛好家さんの私物ですがお願いして見せていただきました。
こう並べると、また良いですよね。雰囲気がより伝わるのではないでしょうか。
30-
50年代の機械式時計を日本のアイデンティティを持って現代技術で作るとこうなるということが感じられる一本なのだと思います。繰り返しますが、時計の楽しみ方は人それぞれです。
既にオーダー出来るようですので、ご興味ある方はHPからどうぞー!
ここまでお付き合いいただいた方、ありがとうございます!
はせじ